おーい。おーい。
誰かが誰かを呼んでいる。
私じゃないことはわかっている。
おーい。おーい。
いつまで経っても、声は止まない。
おーい。おーい。
もしかして。
声のするほうを向いてみる。
おーい。おーい。
声は止まない。
やっぱりね。
ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ、私のことと思ったの。
恥ずかしいじゃない。ちょっとどころじゃないくらい。
ずっと誰かが呼んでいる。
うらやましいな。
だって、そんなに大きな声を出すなんて、恥ずかしいじゃない。
誰も私のことを知らないのに。
私は誰も知らないのに。
そんなに大きな声を出したら、恥ずかしいじゃない。
だから、うらやましいんだよ。
おーい。おーい。
早く見つけてあげてよ。
誰かののどが枯れちゃうから。
おーい。おーい。
早く見つけてあげてよ。
ついでに、誰か私のことも。
おーい。おーい。
いつまで続くの、この声は。
いつまで誰も、気がつかないの。
声のするほうを見てみたら、誰かが大きく手を振っている。
目を細めて見てみても、知らない誰かが大きく手を振っている。
まわりは誰も気づいていないみたい。
声のするほうに歩いてみる。
2、3歩進んだところで大して変わらない。
誰かなんてわからないまま。
でも、大して変わらないけど、変わってないわけじゃない。
2、3歩前の私とは、もう違う。
私は思い切って、歩いたんだ。
足が動けば、きっと手も動く。
おーい。おーい。
私も大きく手を振ってみる。
私も大きく声を出してみる。
おーい。おーい。
私の声だけが響いていく。
宙に浮かんで、消えていく。
まわりを見てみたら、何人かが立ち止まっていた。
知らない誰かが、立ち止まっていた。
知らない誰かが、私を見ている。
恥ずかしいじゃない。
何事もなかったように、歩き出す。
何事かはあったけれど、私しか知らない。
私しか知らないことなんて、きっとないのに。
それでも、私は知っている。
おーい。おーい。
大声振り絞ったら、のどが渇いた。
歩いているだけで、のどが渇く。
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