ストーリー

ストーリー

おにぎりの好みとテレパシー

「あの人はしょっぱいのが好きだから」 知人がおにぎりを作りながら言う。 「塩かけすぎじゃない?」 という私の質問に対する答えだ。 「それにしても…」と私が続けようとする。 「からだに悪いのはわかってる。でも、おいしく食べてほしいじゃない?」...
ストーリー

床の傷痕

自分勝手なぼくに嫌気がさして、君は手上がり次第に2人で買ったものを投げつける。 マグカップもまな板も、パジャマも小説も。 ソファは無理だったけれど、ぼくが君に買った財布は投げつけた。 財布は見事、ぼくに命中。 床に落ちた財布が開いたら、中身...
ストーリー

ぼくの証が明るいものではないと知っても

笑いたくないのに笑ってしまう。 どうしてここに来てしまったのだろうか。 同窓会なんて、これまで一度も参加しなかったのに。 自然と背中は丸まり、静かに呼吸を繰り返す。 「変わってないね」なんて褒め言葉じゃない。 あの頃と同じままだなんて、これ...
ストーリー

ロールケーキのエンド

風が強くて、向かい風。 目を細めて歩いていたら「久しぶり」と声がした。 声の先には、君がいた。 逆風の中でも逆光の中でも、君だとすぐにわかった。 「久しぶり」 「どのくらいぶり?」 「さあ?5、6年ぶりくらい?」 本当は2年前だ。本当は心臓...
ストーリー

これ以上は近寄らないでください

映画の1シーンのようにはいかないね。 あの俳優のようにぼくがカッコ良くて、あの脚本家のように伏線を張れて、あの監督のように演出できたら。 君が流した涙をきれいに拭ってあげられるのに。 なにも言えないし、なにもできない。 君の隣を歩くだけ。 ...
ストーリー

おーい。

おーい。おーい。 誰かが誰かを呼んでいる。 私じゃないことはわかっている。 おーい。おーい。 いつまで経っても、声は止まない。 おーい。おーい。 もしかして。 声のするほうを向いてみる。 おーい。おーい。 声は止まない。 やっぱりね。 ちょ...
ストーリー

ニベアの匂いがする方に

バイト先の休憩室。 どこからか嗅ぎ覚えのある匂いが漂ってきた。視線を揺らすと、君が小さなバッグを膝の上に置いたまま手になにか持っていた。 ごめん、匂った? 君は手をこすり合わせながら言う。 ううん。 ぼくは慌てて首を振る。 良かった。この匂...
ストーリー

虫も殺せぬやさしい君。

君は虫が苦手だ。 どんなに小さな虫だって。 蚊すらやっつけられない。 君の腕に蚊が止まったとしても、君は蚊をやっつけられない。腕を振り回したり、息を吹きかけたりするのが精一杯。 それで蚊が逃げなければ、君はただ血を与える。あとで痒くなること...
ストーリー

レシピ通り作ってもお取り寄せを探しても足りないもの。

急にあの味が食べたくなる。 どうして思い出すのかはわからないけど、懐かしい味。 久しぶりに食べたいな。 君に教わったレシピ。 料理なんてほとんどしなかったけど、それだけは君から教わった。 君はなんでも上手に作ってくれた。中でも特別な料理。簡...
ストーリー

さみしい夜に思うこと。

夜はさみしいから家に来てよ。君の言葉をどこまで信じればいいのか。夜がさみしいのは僕も同じ。でもきっと理由は違うのだろう。いくらかの光と音があれば、さみしい夜が少しは紛れるのかもしれない。
タイトルとURLをコピーしました