さみしい夜に思うこと。

ストーリー
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夜はさみしいから私の家に来てよ。

 

君の言葉に思わず息が止まりそう。

どういう意味なのだろう。言葉のまま受け取るにはリスクがある気がした。

君のことが好きかそうじゃないかと問われれば、好き。

それでも君の言葉を素直に受け入れられない僕がいる。

 

普段、滅多に感情を露わにしない君がそんなことを言うなんて、よっぽどのことがあったのだろう。それを聞く気はないし、君も言わないだろう。それでも君の家に行くことは、それも夜に、熟考するのは当たり前だ。

 

夜はさみしい。

それは僕も同じ気持ち。

いつも君に会えるわけでも声を聴けるわけでもないから。

君と僕のあいだには、見えない壁がいくつも連なっている。

 

君がどうしてさみしいのか。

きっと僕とは理由が違うのだろう。

それでも、やっぱり、これはチャンスなんだ。

僕にとって大きなチャンス。

君のさみしさにつけ込むなんて卑怯なのかもしれないけど、そんなことは言っていられない。

いろいろ御託を並べたけど、僕の選択肢はたったひとつ。

 

何時頃、行けばいい?

 

なにも期待していないと言ったら嘘になる。いろいろ準備する時間は少しばかり欲しい。仕事で汗をかいたからシャワーは浴びたいし、手ぶらで行くのもあれだから君の好きなお酒を買っていこうと思っている。

 

なんのために?

念のために。

深い意味はない。

ただ、夜はさみしいから。

 

これを飲みながら話をしよう。深い話なんてしなくてもいい。明日になったら忘れているくらいの話を眠るまでしよう。そうすればさみしくなんかないよ。

 

 

君の家は緊張する。

わかっていたけど、思った以上に。

君は僕の差し入れを喜んでくれた。

君はお酒を飲みながらいろんな話をする。

どうしてさみしいのか君は言わないけど、話は弾んだ。

でもそれ以上に、思った以上に、緊張する。

 

君にとっては明日になったら忘れるような話なのかもしれないけど、僕はきっと忘れない。どんなに些細な話だとしても。

君と僕のさみしいが違うように、君と僕の大切なことも違うから。

 

僕はいつもよりピッチが速い。

君のほうが僕よりも随分とお酒が強いのに、同じようなピッチで飲む。

僕はお酒が弱い。いつもならもう完全に眠りについているレベル。それなのに今夜に限ってまったく酔わない。意識も足元もしっかりしている。

 

緊張しているからなのか、それとも。

 

 

気づけば君のほうが先に眠っていた。

寝顔をチラリと覗けば笑っているような、いないような。

僕は大きく息を吐き出し、グラスを口にする。

 

帰ろうか迷い考え、飲み干したグラスに新たなお酒を注ぐ。

帰ったとしても僕は君の家の鍵を持っていない。鍵を開けて出て行くことはできても閉めることはできない。

ここにいる理由はできた。

 

僕は部屋の端に目をやる。

君が用意してくれていた布団。

僕が寝るための布団が畳まれている。

ここに来たときはびっくりしたよ。

 

眠たくなったらあそこで寝ていいからね。

君は笑って言った。

期待するなっていうほうが無理な話だ。

 

失礼します。

君に届くはずのない声を自分にかけて、君を抱える。

ゆっくり、そっと、なるべく君のことを見ないように。

君を敷布団の上に置いて、掛布団をかける。

 

君の部屋の僕ひとり。

なかなかなシチュエーション。

電気を消して、ひとりお酒を飲む。

まだ酔えない。

 

君は意外と寝相が悪い。

何度も掛布団をかけ直す。

 

全然眠れないから、テレビを点けたり、スマホを見たり。

君に明かりが届かないように。

君が眩しくならないように、小さな光だけ。

少しばかり音が鳴らないと、さみしくて圧し潰されそう。

 

夜はさみしい。

僕はまだ酔えない。

僕はまだ眠たくならない。

 

君の寝息がたまに聞こえてくる。

帰るわけにも寝るわけにもいかず、朝まで起きているにはまだ時間がある。

 

夜はやっぱりさみしい。

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