ぼくの証が明るいものではないと知っても

ストーリー
本サイトはアフィリエイト広告を利用しています。

笑いたくないのに笑ってしまう。

どうしてここに来てしまったのだろうか。

同窓会なんて、これまで一度も参加しなかったのに。

自然と背中は丸まり、静かに呼吸を繰り返す。

「変わってないね」なんて褒め言葉じゃない。

あの頃と同じままだなんて、これまでの人生を無駄にしているようだ。

空っぽなんだと言われている気がする。

「そんなことないよ」と自分に言い聞かせても、誰も聞いていない。

ひとりこっそりお店を抜け出し、家を目指す。

いつもより寂しい帰り道。

いつもより虚しい帰り道。

久しぶりに会ったら何か変わる気がしたのに。

自分のことなんて、何も証明できなかった。

ちんけなプライドが、いつだって現実を突きつける。

理想と現実なんて、交わらないんだ。

早く帰りたいのに帰りたくない。

冷たい風を浴び続けて、飲んだ酒をすべて抜きたい。

気づけば知らない道を歩いている。

誰もぼくのことなんて知らない町を歩いている。

こんなことなら、大声で歌でも歌ってやろうか。

そんなことすら、出来ないくせに。

冷たい風がからだの中に入ってくる。

ぐるぐる巡ってどこかに消える。

頭もからだも重たいまま、灯りを頼りに歩いていく。

街灯ではなない何かが光っている。

自動販売機かと思ったけど、近くにいったら証明写真だった。

確か、もう少しで免許更新。

カーテンを開けて、冷たい椅子に座る。

証明写真は、どうして笑ってはいけないのだろう。

笑ってることはいいことだと教わったのに、証明するためには笑ってはいけない。

誰もが認めるためには、笑っていてはダメらしい。

笑っちゃダメだと思うと、笑ってしまう。

口を大きく動かして、顔の筋肉をほぐす。

画面に表示された枠内に顔を入れたら、背中が曲がる。

椅子の高さを変えればよかった、と後から思う。

顎が上がる。

口が半開き。

なんか歪んでいる。

証明写真が出てくるのを待つ。

写真ひとつでこんなに疲れるなんて。

出てきた証明写真を眺める。

笑ってしまった気がしたけど、笑ってなかった。

笑ってるつもりでも、意外と笑ってないもんだ。

普段はちゃんと笑えているのか、心配になってきた。

笑ってることはいいことなのに、ちゃんと笑えているのだろうか。

どうして笑わないとダメなのか。

どうしてぼくは、こんな顔なのか。

そもそも、こんな顔してたっけ。

「変わってないね」なんて言わないで。

あの頃とは、随分と変わっているでしょ。

思っているより、随分と歳を取った。

証明写真を持って家へと向かう。

誰にも何も証明できていないけど、証明できたものは確かにある。

これからも、この顔でいくしかないってこと。

これでいくしかないってことを。

コメント

タイトルとURLをコピーしました