ちょうどいい濃さのカルピスとやさしさと。

ストーリー
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ちょうどいい、って難しいよね。

君がそう言う。

 

濃すぎたり薄すぎたり。気持ちはありがたいけど、ちょうどいいってなかなかないから。

僕は君の言葉を聞きながら、反論も同意もしない。

今の君にちょうどいい言葉をずっと探している。

 

カルピスと同じね。

なにも反応しない僕を見ながら、君は続けた。

 

カルピス?

ようやく僕は君の言葉に反応できた。

 

うん。濃すぎるとはじめはうれしいけどそのうち飽きてしまう。薄すぎると物足りなくて怒りすら覚える。

君は親指と人差し指をくっつけたり離したりする。

 

まあ、自分で作るときは濃くなりがちだけどね。

僕はきっと君が言いたいことを理解できていないのだろう。それでも君は僕の言葉をきちんと聞いてくれた。

 

誰だってみんな、自分には甘いからね。

君は的外れな僕の回答にカルピスをかけてくれた。

 

本当にカルピスみたいだ。

君にかける言葉が見つからないまま、僕の言葉はどこまでも薄っぺらい。

 

僕は立ち上がり、君のそばから離れる。

どんな言葉が君にちょうどいいのか、考える。濃すぎず薄すぎず、今の君が求めているちょうどいいものを考えながらふらふら歩く。君を置き去りにしたまま。なにもかける言葉が見つからないのなら、そばにいたってしょうがない。

思いついた言葉はどれも濃すぎたり薄すぎたり。それに少しだけ引いたり足したりしたって、ちょうど良くはならない。僕にはちょうど良くても、きっと君には物足りない。そんな言葉しか見つからなかった。

 

ふらふら歩き回ったあと、僕は君のところへ戻る。

君は少しも動いていなかった。

隣に座って、なにも言わずに君に手を伸ばした。

 

はい、これ。

 

わざわざ買ってきてくれたの?

君の表情が少しだけ動いた気がした。

僕はなにも言わずに、頷いた。

 

ありがとう。

君は僕が差し出したカルピスを手に取り、キャップを開ける。

カルピスが君の喉を通り過ぎる音が、とてもきれいだった。

 

うん、ちょうどいい。

今度は確かに。

君が少しだけ笑った。

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