自分勝手なぼくに嫌気がさして、君は手上がり次第に2人で買ったものを投げつける。
マグカップもまな板も、パジャマも小説も。
ソファは無理だったけれど、ぼくが君に買った財布は投げつけた。
財布は見事、ぼくに命中。
床に落ちた財布が開いたら、中身はちゃんと抜いていた。
「お揃いは、ギリギリ財布まで」
君はそう言って、ぼくの誕生日に色違いをプレゼントしてくれた。
服は?
なし。
パジャマは?
OK。
スニーカーは?
なし。
スリッパは?
OK。
ぼくもお揃いにこだわりはなかったけれど、OKが出るとなんだかうれしかった。
そして、最後に君は指輪を投げつけた。
ネックレスもピアスもブレスレットも、君はぼくからアクセサリーをもらうのを拒んだ。
唯一、OKが出たのが指輪。
「これは社会的に認められたものだから、アクセサリーじゃないの」
君はそう言って、笑っていた。
指輪はぼくに命中することなく、どこかで「カラン」と音をたてて消えた。
金属音がやたらと長く響いたあと、ぼくの君のあいだには長い沈黙が訪れて、そのまま君も消えた。
君が消えたあと、ぼくは指輪を探した。
なかなか見つからなかったけれど、棚のすき間でやっと見つけた。
近くの床には、傷痕が残っている。
指輪による傷なのかは不明だけど、きっとそうなのだろう。
指輪は見つかったけれど、君は消えたまま。
あれから数ケ月経ったのに、君は消えたまま。
誰も見ていない、誰も知らない、今の君。
君は消えたのに、指輪は引き出しの奥に住んでいる。
君は消えたのに、掃除をしていると時折長い髪の毛が出てくる。
君は消えたのに、床の傷痕は残ったまま。
「今までどこにいたの?」
いつか来るかもしれないそのときに備えて、練習がてら言葉にしてみる。
返事はなにも返ってこず、どこからか「カラン」と音がした気がした。
「カラン」と音がするたび、体が反応してしまう。
自分勝手なぼくは、指輪の傷痕を隠すことにした。
1人で買ってきた床材で、指輪の傷痕を隠した。
いつでも剥がせるから。
自分勝手なぼくはそう言って、床の傷痕を隠した。
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