急にあの味が食べたくなる。
どうして思い出すのかはわからないけど、懐かしい味。
久しぶりに食べたいな。
君に教わったレシピ。
料理なんてほとんどしなかったけど、それだけは君から教わった。
君はなんでも上手に作ってくれた。中でも特別な料理。簡単だから僕でもできるよって教えてくれた。
思い出したら余計に食べたくなる。
でも、君はいない。
レシピを探す。すぐに見つかった。
懐かしい、君の字で書かれたレシピ。
レシピ通りに作ったのに、なにか違う。
不味いわけじゃないけど、なにか違う。
間違えたところはどこにもないはずなのに。
箸を置いてレシピを見る。やっぱり間違えたところはない。
なにか違う。
なにかが足りない。
天井を仰いで、君につぶやく。
作れないのなら出来上がったものを。
もうひとつ思い出した。食べたい味。
君がどこかから手に入れた、お取り寄せ。
むかし、食卓に出た。
これ、おいしいね。
ぼくは君に言った。
でしょ。これ※※でお取り寄せしたの。この味絶対好きだと思ったから。
君ははしゃいでいた。
ふうん。
僕はそれだけ言って食べた。
それだけしか、しなかった。
それだけだから、今きっと思い出せないんだ。
頭の中をいくら絞っても思い出せない。
また買っておいてよ。
思い出せたのは、ぼくが君に言ったそれだけ。
スマホを開いてもどれだかわからない。
同じようなものがいくつもある。どれも美味しそうだけど、ぼくが求めているものはひとつしかない。
細かい味はわからないけど、美味しい不味いくらいの区別はできる。
そんなぼくの、ぼくも知らないぼくの好みを、君は知ってくれていたのに。
でも、君はいない。
ねえ、ぼくの好きなものはどれ?
スマホで開いたページにつぶやく。
なにも返事はないまま、スマホの明かりが消えた。
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